第98回京都管理会計研究会

京都大学経営管理大学院・経済学研究科は,令和5年7月1日に京都大学吉田キャンパスにて第98回京都管理会計研究会を開催し,会場をZoomで中継するハイブリッド開催としました。本研究会は,研究者・実務家・院生を対象に管理会計研究の最先端の研究成果について知見を共有することを目的にしています。

 当日は,横川久氏(横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科後期博士課程2年)より「ERPシステムが情報の非対称性と分権化の関係に与える影響」と題して報告し,その後議論しました。

 ERP(Enterprise Resource Planning)システムとは,管理会計,財務会計及び人事管理を含めた企業の基幹業務を,受注から出荷までのサプライチェーンに結び付ける統合情報システムのことです。一つのデータベースを共有することで,複数のビジネスプロセス,アプリケーション及び企業のリアルタイム情報に対応できるよう支援するシステムです。報告では,ERPシステムを自社保有・運用することをオンプレミス型と呼び,最近増加しているクラウドを用いたERPシステムをクラウド型と呼んで整理しました。

 報告では,組織内における「情報の非対称性」と「分権化」のレベルは正の関係があることを先行研究から紹介しました。さらに,今回実施したサーベイ調査を基に,オンプレミス型ERP導入がこれら二つの正の関係を弱めることを紹介しました。このことは,ERPのような高度な情報システムが知識移転コストを引き下げる機能に効果を有していることを示しました。さらに,知識移転コストが低減するため,情報が下位者から上位者へ一層流れやすくなるので,分権化の必要性が低減することを示しました。

  一方,クラウド型ERP導入企業は,オンプレミス型ERP導入企業に比べて,「情報の非対称性」と「分権化」の関係に対する負の効果がオンプレミス型と比べて小さいことを指摘しました。かかる結果を踏まえ,「クラウド型ERPは,導入時や導入後のカスタマイズが困難であることから,きめ細かな機能統合作業が難しい」という先行研究から予想される結果と一致していることを指摘しました。

  参加した約25名の研究者・院生や実務家などと講演者との間で活発に議論が交わされ,盛会のうちに終了しました。

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