第103回京都管理会計研究会

 京都大学経営管理大学院・経済学研究科は,令和6年3月16日に第103回京都管理会計研究会を総合研究2号館にて第103回京都管理会計研究会を開催し、会場をZoomで中継するハイブリッド開催としました。本研究会は、研究者・実務家・院生を対象に管理会計研究の最先端の研究成果について知見を共有することを目的にしています。

 当日は、Berend van der Kolk氏(Associate Professor of Management Accounting & Control School of Business & Economics, Vrije Universiteit Amsterdam)より「The Impact of Management Control on Organizational Characteristics」と題して報告し、出席者と議論しました。このたびの報告者の招聘には公益財団法人牧誠財団の助成を受けています。

 報告は前半部と後半部の2部構成となっており、前半部は「Management Accounting Tools and the Erosion of Stewardship: A Case Study」と題して、オランダの家族経営の製造業を営む企業がプライベート・エクイティ・ファンドにより経営権を取得された事例を紹介しました。報告では、管理会計手法は組織にとって中立的ではなく、組織の一部の側面を照らす一方で、一部の側面を隠してしまう点を指摘し、管理会計手法の家族経営企業への影響を説明しました。一般的に、家族経営企業の従業員はより高いレベルの忠誠心とアイデンティティーを有していることを紹介し、従業員にStewardship、すなわち内発的動機付けが高かったり、組織への忠誠心が高かったりするときに、管理会計手法は従業員に自律性を与えたり、新規採用時の指針ともなることを指摘しました。事例ではプライベート・エクイティ・ファンドが経営権を取得した後に、管理会計手法を導入することで、経営権が移るまでは多くのものごとが経営者の頭の中だけで扱われていたのに対して、管理会計手法を導入したことで長期的な出口戦略やマネジメントに改善が見られたことを報告しました。

 後半は、「Performance Management, Trust, and Performance: Survey Evidence from Healthcare Organizations」と題して、オランダのヘルスケア・セクターに対して行ったサーベイ調査の結果を報告しました。オランダの病院では手術数や患者を何人診たかといったことが数値で測定されています。また、オランダのヘルスケア・セクターでは自律性が担保されているものの、先行研究では、管理会計のような公式的な管理手法は自律性を脅かすものとの指摘しました。さらに、主観的な業績評価手法は管理職への信頼感を落とすとの指摘も行いました。そこで自己決定理論(self-determination theory)に基づき、オランダのヘルスケア・セクター約150からの回答を基に分析した結果では、業績評価制度の質が高ければ業績評価制度は組織内の信頼関係の醸成に寄与することを主張しました。

 参加した約10名の研究者・院生や実務家などと講演者との間で活発に議論が交わされ、盛会のうちに終了しました。

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