第100回京都管理会計研究会

 京都大学経営管理大学院・経済学研究科は,令和5年12月9日に総合研究2号館講義室3にて第100回京都管理会計研究会を開催し、会場をZoomで中継するハイブリッド開催としました。本研究会は、研究者・実務家・院生を対象に管理会計研究の最先端の研究成果について知見を共有することを目的にしています。

 当日は、浅田拓史氏(大阪経済大学 情報社会学部 教授)より「臨床会計学批判」と題して報告し、出席者と議論しました。臨床会計学とは、管理会計の科学的な知識と実践的な知識を結びつける会計学です。
これまで、組織科学や人的資源管理などの研究者は理論と実践の間に存在する差異(ギャップ)に注目し、これをいかに埋めるかということを議論してきました。管理会計におけるこのような差異に対応するため、臨床会計学では科学的な知識と実践的な知識を結びつける知識である臨床知に着目しました。臨床知を有する「臨床家」を経営者などの実践を担う実務家に対して助言を行う専門家と想定しており、具体的には、中小企業診断士、税理士及び公認会計士などの職業的専門家、地域金融機関の担当者、並びに組織内で会計職能を担う担当者などを想定しています。

 報告では、臨床会計学を批判的に検討したところ、臨床家と研究者の間の継続的関係に着目している点を、臨床会計学の先行研究に対する新規性であると指摘しました。信頼がなければ十分な情報開示はは限定され、真実を見誤る危険があることを指摘し、信頼構築には相互依存関係のマネジメントが重要であること、さらに臨床会計学では臨床家が研究者から有用な知識を引き出せるような依存関係を継続的かつ十分に構築できることが必要であることを指摘しました。臨床会計学は、継続的な信頼関係の下で調査研究を行うことで、データの質を高める可能性があることを示しました。

 さらに臨床会計学において臨床家がどのようにふるまっているかを明らかにするだけでは、従来のコンサルティング研究との差はほとんどない点を報告しました。従来のコンサルティング研究では、コンサルタントの知識源泉や、彼らがどのように科学知を用いているのかについて十分な知見が蓄積されていないとのことです。具体的には、臨床家はどのような場合に科学知を利用し、どのような場合に利用しない/できないのかという境界条件が不明なことが挙げられます。そこで、特に科学知と実践知の差をどのように埋めているのかについてのデータを体系的に収集しなければ臨床会計学の新しい貢献は難しいのではないかと指摘しました。

 臨床会計学が今後掘り下げるべき課題として、領域横断的な実践知・臨床知を臨床会計学という学問的枠組みで囲うことの妥当性を説明すること、及びコンサルティング研究の知見の整理が必要であることを指摘しました。さらに、臨床知は専門職のもつ専門知識(expertise)とどのように違うのかを明らかにするために、専門知識や暗黙知との関係に関する先行研究が臨床会計学に対して有用な示唆を提供してくれる可能性を指摘しました。

 参加した約30名の研究者・院生や実務家などと講演者との間で活発に議論が交わされ,盛会のうちに終了しました。

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