第116回京都管理会計研究会

 京都大学経営管理大学院・経済学研究科は、令和7年10月12日に第116回京都管理会計研究会を総合研究2号館にて開催し、会場をZOOMで中継するハイブリッド開催としました。
 本研究会は、研究者・実務家・院生を対象に管理会計研究の最先端の研究成果について知見を共有することを目的にしています。

 当日は、Jan Pfister氏(トゥルク大学 准教授、ストックホルム経済大学客員研究員)より「The prosocial paradigm: A new foundation for performance management and management control system」と題して報告し、出席者と議論しました。

 本報告では、現代の経済学が依拠してきた自己利益最大化(self-interest maximization)を前提とする「経済人(homo economicus)」モデルに対して、“プロソーシャル(prosocial)”な行動モデルの必要性が論じられました。これは、他者・社会・自然環境の利益を考慮する協働的行動を重視する考え方であり、個人よりも集団レベルの協働行動が長期的パフォーマンスを高めることを示す進化理論の知見を踏まえています。

 この前提に基づき、Pfister氏は「プロソーシャル市場経済(prosocial market economy)」という新たな枠組みを提案しました。これは、経済活動を単なる競争や利潤追求の場ではなく、共通善(common good)を創出する制度的仕組みとして再構成する試みです。

 報告では、プロソーシャル行動(prosocial behavior)を支える制度設計として、“8つのコア・デザイン・プリンシプル(Core Design Principles: CDPs)”が提示されました。
 それは、①明確な目的とアイデンティティ、②公平な分配、③包括的意思決定、④透明性、⑤段階的な対応、⑥迅速で公正な紛争解決、⑦自律的統治、⑧他組織との整合的関係の8項目です。
 これらの原理を組織に制度化することで、利己的行動が抑制され、協働行動が合理的選択となる環境を整えることができると主張しました。

 続いて、これらの理論を実践に落とし込むための枠組みとして、「プロソーシャル・パフォーマンス・マネジメント・システム(Prosocial Performance Management System: Prosocial PMS)」の構想が紹介されました。
 Prosocial PMSは、組織のビジョン・目標設定・情報共有・評価・報酬・人材育成といった要素をCDPsに基づいて再設計することで、経済的パフォーマンスと社会的価値を同時に高めることを目的としています。

 この考え方は、企業組織や大学といった異なる組織形態にも応用可能であり、競争と協働の両立、経済的効率と持続可能性の両立を実現する新しいパラダイムを構築できると結びました。
 参加した約30名の研究者・院生や実務家などと講演者との間で活発に議論が交わされ、盛会のうちに終了しました。

講演するPfister氏

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