京都大学経営管理大学院・経済学研究科は,令和7年2月8日に京都大学東京オフィスにて第110回京都管理会計研究会を開催し、会場をZoomで中継するハイブリッド開催としました。本研究会は、研究者・実務家・院生を対象に管理会計研究の最先端の研究成果について知見を共有することを目的にしています。
当日は、目時 壮浩 氏(早稲田大学大学院 会計研究科 教授)より「コントロールプロセスにおける発生主義の連続的利用がもたらす影響」と題して報告し、出席者と議論しました。
日本の地方公共団体の多くは、現金主義による予算・決算制度を補完するものとして、発生主義に基づく公会計情報(以下、「発生主義情報」という。)を取り入れています。報告では、一方で、財政状況の将来予測に発生主義情報を活用している地方自治体の割合は現状約1割に留まること、先行研究においても公的組織における発生主義情報の利用について特定のプロセスにのみ焦点を当てた議論がなされてきたことを指摘しました。他方で、日々資源を効果的かつ能率的に活用するプロセスであるマネジメント・コントロールの観点では、各会計情報が有機的に連携しており、情報の一貫した利用が行われる必要性があることを強調しました。
報告では、以上の背景を踏まえてコントロールプロセスにおける発生主義情報を「連続的に」利用することの重要性を指摘し、全国792の市および23の東京特別区を対象とした異なる2時点の質問票データを組み合わせた分析とその結果が報告されました。短期的には、コントロールプロセス全体を通じた発生主義情報の連続的利用を通して、発生主義情報を用いることには「住民ニーズへの対応改善」、「コスト削減」といった業務効率性を改善する効果があるという認識が高まることが示されました。また中期的には、発生主義情報を活用することが業務の改善に効果があると認識されると、指定管理者制度によってアウトソーシングが行われている事業(施設)におけるコスト把握能力が向上することを指摘しました。これらの結果を通して、コントロールプロセスにおける発生主義情報の連続的利用が公会計情報の利用の効果認識を高めること、またこれは、結果として公的組織における事業の認識やコストの把握能力などの行政能力を高めることにつながる可能性を指摘しました。
参加した約20名の研究者・院生や実務家などと講演者との間で活発に議論が交わされ、盛会のうちに終了しました。