第90回京都管理会計研究会

日 時: 令和3年11月6日(土)13:30~17:00
場 所: オンライン講座(ZOOM利用)
報告者: セルメス鈴木 寛之 氏(京都大学 経済学部講師)
テーマ: 「 大家族主義的組織文化の下での経営アカウンタビリティ:京セラアメーバ経営の事例 」

京都大学経営管理大学院・経済学研究科は ,令和3年11月6日,Zoomを用いたオンライン会議として,第90回京都管理会計研究会を開催しました。本研究会は,研究者・実務家・院生を対象に管理会計研究の最先端の研究成果について知見を共有することを目的にしています。

 当日は,セルメス鈴木 寛之氏(京都大学 経済学部 講師)より「大家族主義的組織文化の下での経営アカウンタビリティ:京セラアメーバ経営の事例」と題し,経営アカウンタビリティに潜む諸問題を検討するために京セラ株式会社(以下,「京セラ」)の事例分析を行った結果について報告がなされました。

 報告では,アカウンタビリティを「行動の理由を説明する,あるいは逆に問う一連のプロセス」,また,経営アカウンタビリティを「組織における部下などの下位者が,上司などの上位者へ,業務に係る意思決定や意思決定に至る過程及びその結果に対するアカウンタビリティであり,主に予算実績管理などを通じて経済合理性の観点から説明・正当化がなされるもの」と定義しました。その上で,会計などの計数を通じて可視化・透明性を高めようというアカウンタビリティには,利己的で機会主義的な個人イメージを増幅してしまうリスクがあることを問題点の一つとして指摘しました。また,アカウンタビリティの持つ一つの限界として「説明される側が求める規範や(会計を含む)ルールに沿った形でしか説明することを許されない」という説明する側の性質を「自己の介在性(mediated self)」の問題として指摘しました。また , アカウンタビリティに関するこれらの論点が,近年の研究では環境問題やコロナ対応の分析にも援用されていることも紹介しました。

 京セラのアメーバ経営の事例では,アメーバリーダーが直属の上司又は所属する事業部・事業本部,若しくはその両方に対する経営アカウンタビリティを有していることを説明し,京セラには経営アカウンタビリティを規定する社内的規範・ルールとして(1)時間当たり採算制度と(2)大家族主義的組織文化の少なくとも二つが存在することを指摘しました。時間当たり採算制度によってアメーバリーダーは自身のアメーバの採算状況について月次ベースで説明責任を課せられると同時に,個人目標を全社的目標と調和させるような大家族主義的組織文化に沿った行動をとることを求められていることを説明しました。

 報告では,京セラには会計的ルールに加えて集団主義的組織文化という行動規範が存在することから,理論的には上記の2つの問題が発生する余地があるとした上で,実際にはアメーバリーダーがこれらのルール・規範に積極的にコミットすることにより,個人主義的な行動を過度に刺激することなく,かつ自己の介在性に起因する精神的重荷の問題も軽減することができていることを説明しました。加えて,従業員は在籍期間が長くなるにつれて上述の規範に一層積極的にコミットすることを指摘しました。このことから,説明する側の組織文化に対する心理的コミットメントや在籍期間が,特に自己の介在性に起因する精神的重荷の軽減/増大を考える際に重要になると結論付けました。

 参加した約30名の研究者・院生や実務家などと講演者との間で活発に議論が交わされ,盛会のうちに終了しました。

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