第91回京都管理会計研究会

日 時: 令和4年2月12日(土)13:30~17:00
場 所: 京都大学 吉田キャンパス またはオンライン講座 (ZOOM利用)
報告者: 飯塚隼光氏(京都大学 管理会計寄附講座特定助教)
テーマ: 「 シンプル管理会計の理論化にむけて-3社の実践事例から- 」

京都大学経営管理大学院・経済学研究科は,令和4年2月12日,法経済学部東館地下1階「三井住友銀行ホール」にて第91回京都管理会計研究会を開催し,会場をZoomで中継するハイブリッド開催としました。本研究会は,研究者・実務家・院生を対象に管理会計研究の最先端の研究成果について知見を共有することを目的にしております。

当日は,飯塚隼光氏(京都大学経営管理大学院 特定助教)より「シンプル管理会計の理論化にむけて-3社の実践事例から-」と題し,製造業の中小企業3社の事例分析を行った結果について報告がなされました。

報告では,教科書的な管理会計技法が観察できない中小企業では管理会計が不在なのではなく,単純ながら管理会計が機能している「シンプル管理会計」を実践しているものとみなし,シンプル管理会計の意義について説明しました。

メーカーA社の事例では,製品別の原価を把握していなかったり,海外販売子会社では予算を策定していても本社では予算を策定していなかったりなど,管理会計の教科書で定義されているような「管理会計」を実践していないことが判明しました。しかし,A社は企業理念実現のために研究開発にコストをかけており,製品価格決定時には採算が確保できる水準の原価率を設定しつつ,会計情報が不要と考えられる製造現場や販売現場では予算を策定しないなど合理的なビジネスモデルを構築していることを指摘しました。

また,メーカーB社の事例では,受注生産を行うビジネスモデルのため,採算に影響するのは顧客と折衝する担当者の見積もりの精度であり,収益をコントロールしにくい業態であることを紹介しました。さらにB社ではプロジェクト毎の採算表を作成し,担当者の見積もりのノウハウを蓄積する工夫を行っていることを紹介しました。

最後の事例となるメーカーC社では,自社製造工程を一部に限定し,協力会社に製造を委託するビジネスモデルを構築していることを紹介しました。報告では,過去約30年間にわたるC社における原価表の発展過程を説明し,C社は需要の減少に合わせて自社生産割合を減らし,目標とする粗利益率に合わせて原価率を設定して売価を決めていることを紹介しました。さらにC社では製造工程の管理のために販売量や歩留まりをポイント換算して管理していることを紹介しました。

上記3社の共通点として,採算性を確保する目的でシンプル管理会計を使用していることを指摘し,さらに上記3社は採算性のみを求めているわけではなく,自社技術による優れた製品の製造を目標にしていることを指摘しました。最後にシンプル管理会計研究の意義として,管理会計に求められる本質的な要素を探求する機会の提供と,従来の研究では「未熟な管理会計」として捨象されてしまった事例にも着目できる可能性を提唱しました。

参加した約30名の研究者・院生や実務家などと講演者との間で活発に議論が交わされ,盛会のうちに終了しました。

・講演する飯塚氏

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